わたしの部屋好きを目覚めさせた原点の部屋画像、どこかにあったはず、とスマホをすりすりして見つけました。復刻版ひまわりの1頁です。中原淳一が手掛けた「ひまわり」は戦火を生き抜いた少女たちを思う大人たちと少女たちの清らかな夢と希望が詰まった雑誌です。
童話や少女小説あり、ビックコミックオリジナルで連載中の「フイチンさん」モデル、上田トシコの漫画あり、宝塚、中原淳一のパリ滞在記など華やかな話あり、暮らしを彩る実用的なファッション、手芸、和裁洋裁のアドバイスなど、当時の少女たちのハイレベルな乙女力とハイスキルな生活力に舌を巻きます。
また中村メイコが十代とは思えない文章力で浮浪児と令嬢の格差をやさしく乙女らしく、かつ鋭い視点で描く社会派小説を寄せているなど、あの人がこんなところに!という発見もあって読み甲斐があります。
部屋作りに関する記事は中原淳一がたびたび取り上げており、その絵は中原淳一を扱う本によく掲載されるのですが、花森安治の「夢の部屋」はここ以外で見たことがありません。「夢の部屋」は単に落ち着いた部屋というだけでなく、秀逸な空間利用のアイデアが満載。何度読み返してうっとりしたことか。ぜひみなさんにごらんいただきたい。
真昼の夢の部屋
「いとしいひとよ。
この二畳を、あなたの部屋に決めよう」
ではじまるこの部屋の紹介は、ロマンチックなラブレターのようです。二畳といっても江戸間(176×88)でしょうから現在の二畳よりは広め。押入れ、天袋つきの物置を改造することが前提のようです。
このスペースに花森が配したものは以下の通り。
・椅子2脚
・ドレッサーにもなる引き出し(鏡には「ヴェネチアの総督婦人」という名前が。)
・壁面の本棚と戸棚に板を渡した机。これは出窓でもあります。
・足踏みミシン
・カーテンつきクローゼット
・吊戸棚
・飾り棚
・靴箱(手前の花瓶が飾ってある戸棚)
・天窓(!)
どうですか、この充実ぶり。「この部屋には、家具らしいものは、椅子が二つあるきりの狭さだ。けれど、」からの部屋のギミック紹介に花森安治の「ところがどっこい!」というしたり顔が目に浮かぶようです。しかもこの部屋にはさらに夜用の仕掛けもあるのです。
夜更けの夢の部屋
カーテンを閉め、ミシンを仕舞って机の天板を上げた部屋がこちら。
・本棚の下の戸を手前に倒すと「それはかわいいナイトテーブル」!
・クローゼットの下から引き出せる車輪つきのベッド
・ベッド下は引き出し収納で「枕と毛布とかわいい寝衣も入っている」
天窓を開く紐を引いて、満月を眺めながら鍵付きの日記を閉じて秘密の夢を見る。花森安治は催眠術師のように夢の部屋へ読者をいざないます。この1頁の絵物語にどれほどの憧れを抱いたことでしょう。
戦後のゆたかさ
当時は出来合いの家具を買うより大工を呼んだり、器用な家族に頼んで古い家具や解体した家の古材を再利用して家具を作る方が安上がりだったようです。現代はカラーボックスやすのこを使って家具を作るように、ずっとしっかりした家具を作る技術が家庭のなかにありました。
祖父母や両親の世代がもっていたこうした高い生活力は物不足を補う力でした。祖母の時代は尋常小学校を卒業するまでに学校で袷の着物が縫えるよう学んだと聞きますが、わたしは半襟を安全ピンで留めます。祖父のように刃物を研ぐこともできませんし、のこぎりをまっすぐ引くこともできません。
ゆたかな暮らしはお金で買えるものではないとわたしが思うのはこういうときです。貧困とは生活する能力が乏しいこと。お金を出さなければ手に入らないものがたくさんあるほど生活費がかかります。魚より釣り竿を渡して釣りを教えるべきだというのなら、福祉事業には家政学の支援が含まれるべきだと思います。あったらいくもんね、わたしも。はりきっていくわ。