「となりの脅迫者」のサンプル部分を読み終えた。サンプルだけで4章さわりまで読めて、小冊子以上のボリュームがあった。「ほんとうにまだサンプル?」とamazonの履歴をなんどか確かめにいったほどだった。紙の本で買いたい。
さて、今日は自分の弱さを盾に取る人 スーザン・フォワード 「となりの脅迫者」に書いたが、わたしがカウンセリングに通うきっかけになった話。それは憂鬱さや幻聴、幻覚などではなく、物を飲み込むたびに喉を圧迫するやっかいな腫れ物と太ももの痺れだった。
喉にできた謎の瘤
モノを飲み込むたび左の喉に何かがひっかかる。食事中はもちろん、つばを飲み込んでもかすかに違和感がある。子供の頃、扁桃腺が腫れるとルゴールという薬を塗られたが、わたしは喉にモノを突っ込まれると吐きそうになるので、これが大嫌いだった。耳鼻科で舌を押さえられるだけでもウッとなる。
それで耳鼻科いやだな~と思ってしばらく放置していたが、どうにもこうにも気持ち悪い。痛みはないけれど、なんとも嫌な感じ。悪いものだといけないからともちおにせっつかれてようやく数ヶ月後に病院へいった。
ところが耳鼻科では喉に異常は何もない、腫れもないといわれた。そんなはずはない。指で触れないながら形も大きさもはっきりわかるほどになっている。
「もしかしたら見えないところに影になっているかもしれません。それか、腎臓病があるならそのせいかもしれません」
医師は歯切れの悪い調子でいった。腎臓病が喉に来るなんて聞いたこともない。それに影になっているところならほかの方法で検査をすればわかるんじゃないの?
「あとは、精神的な問題ですね」
えー!だってこれ以上ないくらいの肉体的な感覚なんですけど!でも検査してなんでもなかったらたいていそこに帰結する。精神的な問題というのは要するに気のせいだということだとわたしは解釈した。
「女性は風邪を引いても婦人科へ」
後日知ったことだけれど、ストレスで喉の奥に違和感を覚えるという症状はよくあることらしい。医師が「あー・・・」という顔をしていたのも納得。しかし当時のわたしは「たらいまわしかよ」と思ってその先は自然治癒に期待するしかないとあきらめた。
それからさらに数ヵ月後。医療ライターをしているという人とチャットで話をした。その人はわたしが通勤中にとつぜん倒れてそれ以来寝たり起きたりだという話をきくと、「婦人科へはいった?」と聞いてきた。ありとあらゆる検査を受けたが、婦人科と関連付けて考えたことがなかった。
「こないだ取材させてもらった川崎の婦人科のおばあちゃん先生がね、『女性は風邪をひいても婦人科へいくくらいの気持ちをもってほしい』っていっていたよ」
すでに70歳を超えた現役の女医の名は野末悦子といって、川崎にコスモス女性クリニックをいう診療所を開いていた。
当時コスモス女性クリニックは予約数ヶ月待ちといわれていたが、野末先生のエピソードがいろいろ興味深く、家からいけない距離ではなかった。それで「だめもとで受けてみるか」と診察を申し込んだ。*1
クリニックへいってまず感じたのは、待合室の年齢層が幅広いということだった。たしか平日の午後だったと思うけど、学生らしき少女から中年、中高年、白髪の婦人まで、大勢の女性が待合室に座っていた。それまで婦人科といえば産院というイメージだったので出産適齢期からあきらかに外れた年齢の人たちが多いことに驚いた。
野末先生は人物と呼ぶにふさわしい貫禄と、細やかな気配りと人情のある方だった。むかし親に連れられていったお医者さんってこうだったな、と思った。
一通り診察をすませ、倒れるまでの経緯をきいたあと、先生はさらに親兄弟の遺伝的な疾患や現在の健康状態などをお尋ねになった。そして早くに家を出てひとりぐらしだったことや親との関係などまで話がすすむと身内の姪から話を聞いたかのように深くあれこれ思いをめぐらせていらっしゃった。*2
ふたたび心療内科をすすめられる
検査の結果が出るまでさらに数週間あったと思う。二度目の受信で先生はこうおっしゃった。
「あなたには婦人科の問題は何もありません。よかったわね。乳腺もいっぱい、おっぱいもよく出るわ。あとは心療内科の先生を紹介するわ」
またか。ここでもたらいまわしなんだな、というわたしの失望は顔に出ていたと思う。
「わたしと同じで、長く医長を務めて退職したあと個人クリニックを開院した先生でね、とてもいい方よ」
「そうですか」
「いまは紹介された方だけを見ているの。予約してから見てもらうまで、すこし時間がかかるけれど、いったほうがいいと思う。あなたはそれだけ苦労しているのだから」
「でも困っているのは身体の症状なんですけれど、治るでしょうか」
「身体は心と繋がっているのよ」
そりゃーそうだろうけれどもさ。5分診察で飲んだら具合が悪くなる薬を出されて、具合が悪くなっても飲みきれって言われたりするんだべ、精神科って。
わたしは倒れた直後、紆余曲折あって小田原で漢方を扱う医師にかかったはずが、その妻の内科医から「アロマを使った総合的心理ケア」を受けるはめになり、この医師の思い込みでずいぶん酷い目に遭った。*3なので心理ケアをうたう医師に対する不信感は非常に高かった。
けれども野末先生の人柄と、チャットで知り合った見ず知らずの医療ライターのひとことでここまで来たという偶然になにか不思議なものを感じ、毒を喰らわば皿まで、という気持ちで紹介されたクリニックに予約の電話を入れた。予約は一ヵ月後だった。
椅子がこわい
待合室には夏樹静子の「腰痛放浪記 椅子がこわい」があった。椅子が襲ってくる妄想の話ではなく、腰痛が酷すぎて椅子に座れない作家のノンフィクションだった。
腰痛で精神科。夏樹静子さんもわたしと同じく身体症状で精神科へいくことには強い抵抗があったようだった。しかもその抵抗は莫大な費用をそれ以外の治療につぎ込んで数年経過するまで降参しえないほどの強さだった。
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